【書評】落合陽一さん最新刊『デジタルネイチャー』が面白かった
落合陽一さんの最新刊『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』(PLANETS) をついに読み終わりました。簡単に内容や感想を書きたいと思います。
難しいところもありましたが、おもしろかったです。
なんといってもこの『デジタルネイチャー』は、WEEKLY OCHIAIというNewsPicksの番組にて、
「1日36ページ以上おれ読めないんっす」
という落合陽一さん本人の衝撃発言が飛び出したほど難しい本。
そう、「落合陽一が読めない本」(by 箕輪さん)である。
しかし、Amazonやミノワ書店(?)でかなり売れているようです。この「誰も読めない3000円もする高い本」がなぜ売れているのか…?
さて、落合さんの代名詞ともいえる”注釈の多さ”ですが、同じページに注釈が書かれているので、章の最後にまとめて書かれるより読みやすかったです。
また、「まえがき」が小説みたいでめちゃくちゃ良かったです。でも内容はけっこう難しかった。各章を読み進んでいってようやく理解できたという感じです。
内容, 感想
第1章 デジタルネイチャーとは何か
この章はかなり読みやすかった。前半はエジソンの話でしたが、思っていたよりエジソンってすごい人なんですね。まさか100年も時代を先どっていたなんて…。
後半は、人間の労働や生き方はどうなっていくかについて。「AI+BI型」と「AI+VC型」に分化する話はNewsPicksでも解説されていたので理解できました。
また、ワークアズライフについては落合さんがいろいろなところ(『日本再興戦略』など)で言われています。タイムマネジメントよりもストレスマネジメントが大事だとのことですが、「AI+BI型」と「AI+VC型」に分化した社会では、ストレスフルなことは全くしなくていいようになっていてほしいです。
第2章 人間機械論、ユビキタス、東洋的なもの
ちょっと難しかった。章タイトルにもある「人間機械論、ユビキタス」の部分はなんとかわかったけど、「東洋的なもの」がはいってきたらもうさっぱりわからない…。宗教的なことや哲学的なことに弱すぎる。
結局、「悟り」は機械学習と似てるってことなのか?それはわかったけど、それしか読み取れてないならこの本を読んでる意味がない気がしますよね…。
研究者・科学者は自分の専門だけしてればいいと昔は思っていましたが、宗教・哲学・文化・アートなどいわゆるサイエンティフィックでない部分についての造詣も深いところが落合陽一さんの尊敬できるところであり、これからの人類が目指すべきあり方のように最近は感じます。だから僕も見習いたい!と思いました。
第3章 オープンソースの倫理と資本主義の精神
難しい…。この章のキーワードはオープンソース・非中央集権(分散型)・最適化といったところでしょうか。
一つだけ。オープンソースが拡大した社会では市場価値が短期間でリセットされ、個人としては「常にリセットされ更新され続けながら成長の壁に突き当たる過酷な世界になる」と書かれていたことについて。常に価値を生み出し続けたい人は継続的に新しいことに挑み続ける必要はありますが、ある意味、新規参入をしやすいし、自分が得意なことだけ参入して価値を生み出すこともできるので、僕はその世界のほうがいいかなと思いました。
第4章 コンピューテーショナル・ダイバーシティ
よくわかった。まず前半は「社会」「リアル/バーチャル」などの日本語のゆがみについて。 カタカナ語としてそのまま用いるか日本語を再定義する必要があるとのことです。たとえ嫌われてもカタカナ語を使って正確に伝えたほうがいいのです!
後半は「コンピュータによるダイバーシティ」について。多様性が受け入れられ、テクノロジーと人間が融合すると、本当の意味での「平等」な世界になるんですね。多様性が高い方が楽しいし、差別などもなくなるとなれば、はやく実現したい。
第5章 未来価値のアービトラージと二極分化する社会
「第三のてこ」の話はおもしろかったです。しかしそれ以上に、未来を悲観的にとらえざるをえない内容でした。
AIの発達によって、人類全体が労働から解放されるという楽観的な未来を予想する向きもあるが、おそらく現実にはそうはならないだろう。(p.185)
今後は、最低限の労働で収入を得られる社会、いわば選択の制限された<楽園>に暮らす層と、それ以外の貧困層に分かれていくだろう。(p.192)
楽園とは今のところGoogle、Apple、Amazon、Facebookといったプラットフォームのことです。おそらく貧困層といってもそれなりの生活はできるのだと思いますが、なんかそれこそ差別みたいで僕は嫌です。「オープンソース×非中央集権」によって帝国(楽園)による支配を覆すしかない。
あと、この章のコラムがとても勉強になりました。
- 専門家から職を奪うのはAIではなくエンジニア
- 継続的な学習と、対象分野の絞り込みと掛け合わせが大事
- 「自分らしさ」よりもまずは「今すべきこと」
第6章 全体最適化された世界へ
全体最適化・適応・多様性がテーマです。そして全体最適化は全人類の幸福を追求するという結論。今までの全体最適化は人間の均一化とともにあったのに、これからの全体最適化は人間の多様性をもたらしうる。
インターネットと人間を「時間(寿命)」 という面から考えている点が興味深かったです。確かに「人間VS機械」という議論は成り立たないですね。
ところで、少し気になった点があります。全体最適化って個人の最適化とどういう関係があるのでしょうか?個人の最適化の集合として全体最適化があるのか。しかし、遺伝的な個人の最適化は全体としては脆弱性を生み出す。
終章 思考の立脚点としてのアート、そしてテクノロジー
…すごい。とにかく落合さんがいろんなことをされていて、それがデジタルネイチャーにつながっていることはわかりました。とは言え、難しくてよくわからない。面白そうではありますが…。
最後に, 全体を振り返って
全体としては8割ぐらいは理解できたかなという印象です(ちょっと過大評価かも笑)。特に「まえがき」と「終章」が難しかったです。
機械学習・深層学習の基本的なことはわかっていたので、読みやすい部分はありました。End to Endによる魔術化などはこの本の根底にあるので知っておいたほうがいいかなと思いました。
また、僕がNewsPicksおじさんではなくNewsPicks大学生であり、NewsPicksや『日本再興戦略』で落合陽一さんの思考に触れていたので理解しやすかった面もあります。『魔法の世紀』はまだ読んでいないので何とも言えないですが、読んでいたら理解が深まるのかもしれません。
しかし、理解できなかった2割の部分こそがこの本が伝えたい思想であるような気がするので、もう一度読んで必死で食らいついていきたいと思います。
「誰も読めない3000円もする高い本」に挑戦したくなった方はぜひ!笑